REPORT

活動報告

本会議 ○法務:刑事訴訟法について討論 議事録

第221回国会 参議院 本会議 第30号 令和8年7月17日

○議長(関口昌一君) 佐々木雅文君。
   〔佐々木雅文君登壇、拍手〕
○佐々木雅文君 公明党の佐々木雅文です。
 私は、会派を代表して、ただいま議題となりました刑事訴訟法の一部を改正する法律案に対しまして、反対の立場から討論いたします。
 冤罪被害者を生まない、罪を犯していない人が処罰されることがあってはならない。だからこそ、これまでの再審制度が十分に機能していなかったこと、特に捜査機関の不適切、不十分な対応が散見されたことをいかに是正するか、そのことが今般の法改正の眼目であったはずです。
 しかしながら、議題として俎上に上がったこと自体は評価いたしますが、果たしてその内容は当初の目的を達成するものとなっているのか、大きな懸念が払拭されていません。
 一番の問題は、証拠開示に関する手続が不十分なままとなっていることです。
 再審請求に当たっては、その理由として現行法四百三十五条六号を根拠とすることが多い中で、同号は、確定判決を覆すための新しく明白な証拠の存在を求めています。
 今回の法改正では証拠提出命令が規定されていますが、これは裁判所が裁判所に対して必要な証拠を提出させるにとどまり、かつ関連性を有するものでなければならないとされています。
 この点、政府は、再審においては、請求人や弁護人側で証拠の内容や有無はある程度想定され得るとか、関連する証拠の範囲は相当の広がりを持ち、審理に必要かつ十分な証拠が裁判所に提出されると述べてきています。
 しかしながら、証拠は基本的に捜査機関が有しています。そして、公判に提出された証拠以外には、請求人や弁護人は手持ちの証拠がほぼありません。その中で確定判決を覆すだけの証拠を想定し獲得することは、困難を強いるものであり、現実と乖離していると言わざるを得ません。
 また、裁判所が関連性や必要性をないと判断すれば、そうした証拠を必要としているのは請求人側であるにもかかわらず、証拠が出てこなかったり、裁判所にだけ開示されたりするにとどまります。請求人が証拠にアクセスできないのでは、何のための証拠提出命令なのか分かりません。
 そして、仮に裁判所が提出命令を出したとしても、本当に必要かつ十分な証拠が提出されたのかどうか、その確認のための手段が担保されていません。それでは、適切な対応であったかどうかを判断しようがありません。
 さらに、衆議院で附則が修正され、これまでの運用上の措置として、任意での証拠提出、開示は適切に行うという趣旨の内容が追加されてはいます。
 この点、通常審も含め、証拠の開示は進んできたと説明されることがあります。しかし、弁護人の努力で裁判所を動かし開示に至っている事例が多く報告されています。実際は、捜査機関が積極的に開示に応じるとは限りません。通常審においてすら、結果として証拠にたどり着いたり、合理的な説明ができなくなってようやく提出されたりするのが実態です。
 任意では満足に開示がされていない状況がある中で、再審手続において何をもって適正な運用となるのでしょうか。適正な運用というのであれば、少なくとも、不明瞭な関連性という要件に縛られずに、裁判所が必要性や相当性を踏まえ証拠の提出や開示を求めた場合は、検察側は必ず提出すること、開示することに応じるべきです。
 次に、目的外使用禁止及び罰則が設けられていることについても強く抗議いたします。
 これまでの委員会等での質疑を踏まえましても、再審手続において目的外使用禁止の規定を策定する立法事実は存在していないことが明らかになっています。それにもかかわらず、通常審でも同様の規定があることやプライバシーへの配慮、今後の捜査への支障が生じることなどを理由に明文化されている状況です。
 しかしながら、当事者主義の通常審で設けられている規定を職権主義的構造の再審手続に設けることに整合性がないことがつとに指摘されています。また、証拠開示に伴うプライバシー配慮は、これまでも個別的に十分対応されてきています。さらに、目的外使用禁止を明文化しなければ協力してもらえないような捜査があるとするならば、そもそも証拠化すること自体も困難であり、捜査に支障が生じる場面はかなり限定的です。むしろ、目的外使用禁止及び罰則があることによって当事者にとっては大きな萎縮効果が働き、再審手続における必要な対応すら束縛することになりかねません。
 無辜の救済のための手続保障や迅速化のための法改正であるにもかかわらず、本末転倒な結果になっていると断じざるを得ません。
 加えて、どういった証拠があるかどうかを明らかにするために証拠の一覧表を作成し開示することが有益であることは、これまでも指摘されてきたところです。そもそも起訴という終局処分がなされるには、様々な証拠の取捨選択がされ、それでもなお有罪とすべき証拠構造があると判断されているはずだからです。そうであれば、全ての証拠を提出すること、少なくともその一覧表を提出することにちゅうちょする理由はないはずです。出せないということは、無罪となるような証拠があるからと思われても仕方がないのではないでしょうか。
 また、一覧表の作成を含め、逐一の捜査過程を記録化することは業務負担になり、現実的ではないということも言われます。しかし、社会全体においてもコンプライアンスを重視する中で、捜査機関の各人の業務内容を記録化することは不正を防ぐ上でも大切なのではないでしょうか。公権力を行使する捜査機関だからこそ、率先垂範して実行することが国民の信頼を維持することにつながります。
 捜査過程を記録化し、獲得した証拠を一覧化しておけば、将来の批判にも耐え得るものとなり、捜査機関に不利益となる結果にはならないはずです。それは証拠の適切な管理、保管にも資するものともなります。そうすれば、当初不存在として開示されなかった証拠が、後日発見されたとして開示されるという今の事態も防ぐことになります。証拠の一覧表を作成し、堂々と開示する。そのことが当然となれば、冤罪被害も生じることがなくなります。
 本改正において、再審開始決定に対する抗告は原則禁止となっていますが、例外的に十分な根拠がある場合に限っては可能となっています。しかし、これまでの再審手続においても、十分な根拠があったと判断したからこそ、異議申立てとして抗告がなされてきたはずです。そうすると、今後も原則と例外が逆転した運用がされることが常態になりかねません。
 また、仮に改正が成立した後の再審手続においても、十分な根拠となる事情については審判の中で争われるわけで、それを踏まえても再審請求が認められたのであれば、更に輪を掛けて抗告する余地を残す必要があるとは思いません。今からでも抗告の余地は排除すべきです。
 無辜を救済するには法整備が必要であることは誰しも異存ないと思います。しかし、今回議論されている法改正の内容のままでは、本当に目的に資するのか、懸念が拭い切れません。また、裁判所が強い問題意識を持って再審を主宰してもらえるとよいですが、その担保があるわけでもありません。
 公明党は、立憲民主党とともに、関連性を要件としない証拠開示、提出を可能とすることなどを含めた修正案を提出いたしましたが、否決をされました。誠に残念でなりません。
 以上の次第で、公明党は今般の法律案に反対するものです。
 政府及び関係機関においては、冤罪被害者の声に真摯に向き合い、本当に求められている法整備を行うべきであることを申し上げ、反対の討論といたします。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)